お悩み相談室 by 小嶋美樹

「自分の体は誰のもの?」“人生を自分らしく生きる”ためには「ネガティブな感情」に耳を傾けて!

フェムテック tvでも人気の産婦人科医・池田裕美枝先生こと“ゆみえ先生”の新連載。第2回目は、「体の自己決定権を持ち、自分らしく生きていくためには、まずは自分の心を大切にする必要がある」というお話です。

「周りから浮くのが怖くて、好きなものを好きだと言えなかった」「人からどう見られているか?とばかり気にして、なんとなく居心地が悪い」なんて経験をしたことがある人はいませんか? 今回は「心を大切にできない人は、自分の体も、人生も大切にできない」ということに関して、ゆみえ先生と考えていきます。

「心を大事にする」シンプルな方法とは?

前回の記事のなかでも、自分の体を大切にするためには、自己決定権を自分自身で持つことが重要だとお伝えしました。たとえば、パートナーの望みを叶えるためのセックスをしたり、避妊なしの性行為を我慢しなくてもいい。自分の体は誰のものでもない、あなた自身のものなのです。

しかし、まずは自分の心を大切にできない人が、自分の体を大切に扱うことなどできない、ということも知って欲しいのです」(ゆみえ先生、以下同)

「自分の心を大切にする」とは、具体的にはどんなことなのでしょう?

「心を大事にする、と言うと、メンタルケアのために瞑想をしたり、呼吸法を学んだり……なんて方法を思い描く方もいるかもしれませんが、私はもっとシンプルに考えています。日々のなかで自分にとって何が辛くて、何が嬉しいのか。心地いいことは何で、何が不快なのか。もっと言えば、美味しいとかまずいとかでもいいんです。そんな自分の感覚を大切にしながら生活をすることが、イコール心を大切にすることだと考えています」

『月経カップ』じゃなくて『ナプキン』でもいい

その感覚に従って自分が心地いいと思えることを選ぶことが大切だということですか?

「そうですね。これをするといいよ、という他者の価値観もときには大切ですが、もっとも大事にすべきは『自分が心地いいかどうか』『楽になるかどうか』といった自分軸なのです」

たしかに、たとえば流行っているからといって月経カップがすべての人に良いわけではなく、「私はナプキンの方が心地いい」という人も当然いるわけで……。その感覚に耳を傾けることが重要なんですね。

「その通りです。選択肢が多くあることは悪いことではありませんが、それがあなたの人生にとって本当に必要かどうかは、仮に愛するパートナーでもあったとしても、他者が決めることではありません。あなた自身が自分の心と体の内なる声に耳を澄ませ、自分自身で決めるべきなのです」

「嫌だ」というネガティブな感情が大切

「私は日頃、中学校にお邪魔して性教育の授業を行うこともあるのですが、ある授業のなかで、『自分が嫌だな、と感じる気持ちを大切にして欲しい』と、伝えたことがありました。そうしたら何人かの生徒から、『嫌って気持ちが大事だなんて考えたこともなかった』『嫌だと思ってもいいんですね』という感想が出て、驚いた経験があります」

「嫌だと感じるネガティブな感情は、持たないほうがいい」と考えていた生徒もいたと?

「そうなんです。でも、嫌だとかイライラするといったネガティブな感情は、自分のことを大切にしている証でもあります。

最近、明らかになってきた脳科学研究によると、思春期は感情が豊かになる反面、感情のコントロールが効きにくい年代でもあるそう。その時期に、ネガティブな感情を無理に抑え込まず、親や親友など、揺らがない信頼関係で結ばれている相手に少しずつ感情を吐露することが、実はとても大事なのです」

たしかに昨今は「負の感情をいかに抑えるか」といった方法論に注目が集まりがちですよね。アンガーマネジメントが主流なので、「むしろ出した方がいい」という先生の言葉は新鮮に感じました!

SNS世代の『見られ方』の価値観

「臨床の現場に立ったときには、10代の子たちの本音が見えにくい、と感じることも多々あります。今の子たちは医者の私の前であっても、優等生でいようとするんです。『周りに望まれている自分像でいる』という技術に長けている子が多いように思います」

SNS世代の若者たちは、自分がどう見られているのか、この発言が周りにどう影響するのか、ということに敏感だとも言われていますよね。

「自分自身の声よりも、周りからの見られ方に敏感な子が多く……。ただ、他者からの声ばかり気にしていると、さまざまな意思決定の場面で、自分の内なる声に耳を傾けられなくなってしまう危険性もあるのです。

私が広く皆さんに知っていただきたいSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ※)の考え方には、『誰かのために人生を捧げるのではなく、自分のために人生を生きよう』というスローガンがあります。『友達の目を気にして、好きなものを好きだと言えなかった』『本当はイヤなのに、場の雰囲気に流されて平気なフリをした』などの行為は、自分の心を大事にできていない証。ひいては自分の体も大切に扱えていないことになるのです」

そう考えると、人生の自己決定権を自分で持てている人は、意外にも多くはないのかもしれませんね。

「誰もが当たり前に、自分の人生は自分自身のものとして歩んでいけるような世の中を実現するための第一歩として、まずは自分の心と体の声に目を向けることから始めてほしいなと思っています」

自分自身を大切にすることで、相手の多様性も認められる人が増えて、誰もが生きやすい社会が実現できたらステキですね。

※『SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)』とは?

自分の体や人生は自分自身のもので、誰かに強制されたり、捧げるものではありません。性の多様性や正しい知識を得ることで「どんな人を好きになるか」「子どもを持つか、持たないのか」「どんな人生を送るのか」などを自分の意思で自由に決め、人生を選択しよう、という理念のことを言います。

池田裕美枝先生

いけだ・ゆみえ 京都大学医学部卒業。「市立舞鶴市民病院」「洛和会音羽病院」にて総合内科研修後、産婦人科に転向。現在は「二宮レディースクリニック」での産婦人科外来、「神戸市立医療センター中央市民病院」の女性外来、「京都大学医学部附属病院」の女性ヘルスケア外来を担当。また、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ※ )勉強会や啓もう活動を行う、京都大学学際融合教育研究推進センター主催の「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」のライトユニット長も務める。

コメントを書く / 読む

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です。

小嶋美樹
編集者、ライター、ディレクター。大学卒業後、出版社に勤務し、女性誌や実用書・ビジネス書の編集、WEBディレクターなどを経て、2020年からフリーランスに。現在は主にインタビュー記事や女性のライフスタイル・子供の教育系記事の執筆、韓国エンターテインメント記事の編集・執筆など行う。趣味は旅行で、今一番欲しいものは子供たちと日本中を旅して回れるキャンピングカー。