
【公認心理師・山名裕子先生】〈CASE:14〉過干渉な母親に心が疲れてしまったら「こうあるべき」という固定概念を捨てよう!
月経やPMS(月経前症候群)、セクシャルな問題、男女間や家族間のコミュニケーション問題など……。現在を生きる女性たちは、日々、さまざまな不調やストレスと戦っています。なかなか人に話すことができないそんな女性特有の心身の問題への対処法を、公認心理師の山名裕子先生に伺います。
〈今回のお悩み〉
「過干渉ぎみの母のことが昔からずっと苦手でした。私が社会人になったのをきっかけに実家から電車で30分ほど離れた町で一人暮らしを始めたのですが、なにかと理由をつけ、母が週末ごとに会いに来ようとします。正直、会うと疲れてしまうので、できるだけ会いたくないのですが……。どう対応すればよいのでしょう?」(20代・派遣社員)
「家族はこうあるべき」という価値観を捨てる
「今回のご相談者さまは、お母さまの愛情ゆえの行動を疎ましく思ってしまう自分を責めてしまっている面もあるのかな、とも感じました。もし『嫌に思う自分が悪い』とか『親不孝だ』と感じているのだとしたら、全くそうではないと言うことを、まずはお伝えしたいのです。
母と娘の関係は、前回もお話したように、近い関係だからこそ、愛情が憎しみや怒りに転じやすい『カタストロフィー理論』が当てはまるケースが少なくありません(※前回記事はこちら)。愛情ゆえに娘を干渉しようとする母親のことを疎ましく思うことで、自己嫌悪に陥る必要はまったくないのです」(山名先生、以下同 )
―家族って難しいですよね。簡単には切り離せない関係なだけに、「できれば仲良くしていたい」と願う人も多いのでしょうね。
「そうですね。でも、だからこそ『家族はこうあるべき』との価値観を自分に課す必要はないのだと、多くの人に知って欲しいですね。『家族は仲良くあるべき』『娘は母を尊重すべき』との固定概念を捨てて、自分の心が悲鳴を上げているのであれば、お母さまとの距離を置くことを選択してもよいのです」
会わない期間を設けることも大切
「母子関係のトラブルから、精神的に不安定になってしまう方は、実は非常に多いように感じます。そういう方には、まずは物理的な距離をとることをお勧めしています。
同じ屋根の下に暮らしていることでそれが難しいのであれば、ひとつの選択肢として、一人暮らしをお勧めすることもあります。顔を合わせることのない期間を設けることで、かえって良好な関係が復活するケースも多いのです」
―お互いのために、いったん距離を置くことも重要なのですね。
「今回の相談者さまはすでに一人暮らしを選択されているということで、そこまでは良かったように思います。ただ、結果としては今、お母さまに押し切られて物理的な距離を保てていない状態です。今の状況のまま、お母さまと話し合いの席を設けることは得策ではありません。
今はまだ会うと疲れてしまうようであれば、お母さまが来ることが予想できる週末には敢えて予定を入れるなどして自宅を離れ、会わない期間を設けることをお勧めします」
―「会いたくないから来ないで欲しい」と正直に話すのではなく、「予定があるから会えない」と言って距離を保つのがよいのでしょうか?
「ケースバイケースではありますが、まずはいったん距離を置くことに集中してもよいのではないでしょうか? 『来ないで欲しい』と正直に伝えることで、問題がより複雑になってしまう可能性もあります。必ずしも本音を伝えることがベストではないのです」
親孝行の手段はひとつではない?
―「勇気を出して、母ときちんと話し合わなければ」と思う必要はないのですね?
「問題から逃げているように感じてしまう人もいるかもしれませんが、話し合いを避けて、まずはいったん距離を置くことも大切なのです。今のこの状態で話し合っても、おそらくはお互いにとって良い結果にはならないはず。難しい人も多いかもしれませんが、たとえばお母さまが簡単には来られないような遠方に引っ越すのもひとつです」
―「電車で30分」とは言わず、新幹線でないと来られないような地方に引っ越してみるとか?
「そうですね。ただ、それは難しい方がほとんどでしょうから、できるだけ会わない期間を設けることです。1人になって心の平穏を取り戻した結果、『母親のことを許せるようになった』とか『距離が近すぎたことが問題だったと気が付いた』とおっしゃる方も少なくありません。
話し合ってみても、お母さまの行動がすぐに変わることは、おそらく容易ではないでしょう。自分の心が守れる距離が保てるのであれば、あえて本音で話し合う必要もないのです」
―自分から親を遠ざけてしまうことに罪悪感を持ってしまう人もいるでしょうね。
「特に優しい方はそのように感じてしまうと思いますが、自分を責める気持ちを手放して欲しいですね。離れていてもできる親孝行の手段はいろいろあります。記念日にプレゼントを贈ったり、手紙を書いたり、電話で話したり……。それから行動として親孝行ができない場合でも、毎日前を向いてたのしく健康に過ごせていること自体が、親からしたら嬉しいことなのではないででしょうか。
『親孝行をすることで自分の心が落ち着いた』という方もいらっしゃいますが、その手段が、辛いのを我慢して毎週会うことだけではなく、他の選択肢もあるということを覚えておいてください」
「母を受け入れ、仲良くしなければ」「親には孝行しなければ」などの固定概念に縛られる必要はないのです。「親子が適度な距離を保つことは、けっして悪いことではない」と、誰かに言ってもらえるだけで心が解き放たれる人は、案外多いのかもしれません。
山名裕子先生
やまな・ゆうこ 1986年生まれ、静岡県浜松市出身。公認心理師。「やまなmental care office」を東京青山に開設。心の専門家としてストレスケアからビジネス・恋愛などの悩みへのカウンセリングを行っている。メディア出演や講演会活動も多数。
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