【公認心理師・山名裕子先生のココロの処方箋】〈CASE:11〉姑の愚痴に心が疲弊してしまう前に……「電話に出なければ!の先入観を捨て心を守りましょう」
月経やPMS(月経前症候群)、セクシャルな問題、男女間や家族間のコミュニケーション問題など……。現在を生きる女性たちは、日々、さまざまな不調やストレスと戦っています。なかなか人に話すことができない、そんな女性特有の心身の問題への対処法を、公認心理師の山名裕子先生に伺います。
〈今回のお悩み〉
「コロナ禍で会えない遠方の姑からの電話が、ほぼ毎日かかってきます。聞いてあげたいけれど、コロナに対しての不安感も強く愚痴っぽい姑の話を毎日聞くのに、正直疲れてしまいました。上手く距離を保つ方法はありますか?」(30代・主婦)
「電話には必ず出る」の呪縛からの解放を
「お姑さんは昨年から続くコロナ禍で、以前は話し相手になっていたご近所さんやお友達にも頻繁に会えなくなり、寂しさがあるのかもしれませんね。優しく話を聞いてくれるお嫁さんへの電話が嬉しくて、徐々に頻度が上がり、毎日の電話がルーティンのようになってしまっているのかもしれません」(山名先生、以下同)
―たしかに、コロナ禍の特殊な状況のなかで、コミュニケーションの手段や相手が変化したという人は多いように思います。
「ただ、毎日かかってくる電話の内容が、不安な気持ちだったり愚痴だったり、ネガティブな言葉が多いと、聞くほうの心も疲弊してしまいます。きっと今回のご相談者さまは、『それでも無下にはできない』との思いを捨てきれない優しい方なのでしょう。
しかし、あまりに我慢を重ねると、自分の心のほうが壊れてしまいかねません。まずお伝えしたいのは、『かかってきた電話には毎回必ず出て、対応するべき』という呪縛から解放されて欲しいということです。
『電話に出なくてもいい』と言うと、冷たいように思われるかもしれませんが、お姑さんを遠ざけ、不仲になるべきだと言っているわけではないのです。むしろその逆で、お姑さんと相談者さまの仲が、この先も長く、良好な関係を維持していくためにも、まずは電話のペースを落としてもらう必要があるということをお伝えしたいのです」
話を聞く相手は誰でもよい可能性も!
「ひょっとしたら今、お姑さんは、コロナで閉塞感を感じている現状の愚痴を誰かに聞いて欲しいだけで、その相手はお嫁さんでなくてもいいという可能性もあります。だとしたら、お姑さんに自分以外の話し相手を見つけてあげることが効果的です。
これまでだったら、たとえば趣味のサークルを紹介したり、地域のコミュニティを探すなどの対応ができたかもしれません。しかし、コロナ禍ではそうしたことが非常に困難です。ひとつの手としては、コロナ対策として開かれている地域の無料相談所や電話相談などを勧めてみることです」
―しかしその場合、一歩間違えると、「私は話を聞きたくないので、他にどうぞ」と言っているように思われてしまいそうですよね。
「そう思われないような伝え方が大切です。たとえば『私も利用してみたのですが、すごくよかったですよ』とか『気持ちがすっきりしてお勧めです。お義母さんもどうですか?』などの伝え方をするのがいいかもしれません。
そう話すことで、お姑さんがお嫁さんに対して『あなたも不安を感じていたなか、私もちょっと甘えすぎていたかもしれないわね』と、逆に気遣ってくれる可能性もあります。それをきっかけに、徐々に電話の回数が減ってくれれば一石二鳥です」
直接的な言い方や息子を巻き込むのはNG
―察しのいいお姑さんならいいのですが、それとなく伝えてみても、まったく察してくれない場合はどうすればいいでしょう?
「その場合には、先ほども申し上げましたが、お姑さんからの電話に無理をしてまで毎回、必ず出る必要はないのです。着信に気付いても、気分がのらないときには出ないで、翌日にかけ直せばよいのです。
どうしても気になるようだったら、着信の直後にメールやLINEで一言、『今日はこのあと予定を入れてしまっていて、明日改めて掛け直しますね』と連絡を入れておきましょう。そのうえで翌日に『昨日はすみませんでした』とこちらから電話をかけ、無理のない頻度でコミュニケーションを取るようにしましょう」
―たとえば「お義母さんの毎日の電話がちょっと辛くなってきてしまって。もう少し回数を少なくできませんか?」と、正直に伝えてはダメなのでしょうか?
「それはあまりお勧めできません。なぜなら、その言葉を聞いた相手が、『私の電話が迷惑だったのね』と受け取る可能性も高く、相手を傷付けてしまうからです。あくまで、『最近、ちょっと忙しくなってしまって……』などを理由に話すようにしましょう。『緊急事態宣言が解除になったので、子供の習い事がまた忙しくなってきて。なかなか電話に出られずすみません』などでもよいかもしれません」
―もしくは、お姑さんにとっては実の息子である夫に相談して、夫から伝えてもらう方法はどうですか?
「それも相手を傷付けてしまうリスクがありますよね。なかには『息子に言いつけた』『嫌なら直接言って欲しかった』と思う方もいるかもしれません。こちらにはそんな意図はなかったとしても、『2対1の構図』、つまり『息子と嫁vs母』の対立的な構図で捉えてしまう人もいるかもしれない可能性を考えると、その方法がベストとは言えません」
相手の自尊心を傷つけない言葉選びが重要
「相手に伝えるときに最も重要なのは、『電話に出られないことが増えたとしても、あなたが理由なのではなく、あくまでこちらの都合なのだ』との意図がきちんと伝わるような言葉を選び、相手の自尊心を傷つけないことです。
『私もお義母さんとの電話で気が紛れていたので、感謝しています』と、まずは感謝の言葉から伝え、次に『最近は電話に出られないことも増え、申し訳ありません』と話し、お互いにとって無理ない範囲に電話の頻度を下げてもらうよう、それとなく伝えられたら素晴らしいですね。
ただ、上手く話しができる自信のない人は、改まって話しをしなくても、電話に出ない日を作ることで、適度な距離を保てばよいと思います」
コロナ禍での漠然とした不安や不調を抱えているのは、誰もが同じことです。まずは自分の心を守ることを最優先に考えながら、無理ない範囲でのコミュニケーションを心掛けましょう。
山名裕子先生
やまな・ゆうこ 1986年生まれ、静岡県浜松市出身。公認心理師。「やまなmental care office」を東京青山に開設。心の専門家としてストレスケアからビジネス・恋愛などの悩みへのカウンセリングを行っている。メディア出演や講演会活動も多数。
山名メンタルケアオフィス:https://yamana-mentalcareoffice.com/
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