ココロの処方箋 by 小嶋美樹

【公認心理師・山名裕子先生のココロの処方箋】〈CASE:12〉コロナ対応の差で人間関係がギスギス……それを避ける「アサーティブコミュニケーション」とは?

月経やPMS(月経前症候群)、セクシャルな問題、男女間や家族間のコミュニケーション問題など……。現在を生きる女性たちは、日々、さまざまな不調やストレスと戦っています。なかなか人に話すことができないそんな女性特有の心身の問題への対処法を、公認心理師の山名裕子先生に伺います。

〈今回のお悩み〉
義姉が我が家の子供たちを可愛がってくれており、休日には感染症対策をしてお店や遊び場に連れて行ってくれることが多いのですが、本音を言うと、私はまだ子供たちを休日の人ごみに連れていくのが心配です。このような価値観の違いは、どのように話し合えばよいのでしょう?(40代・会社員)

「アサーティブコミュニケーション」を使って円満解決を

「昨年から続くコロナ禍の日々のなかで、今回の相談者さまのように、家族や友人、職場の方たちとの間に生じた『感染症対策の価値観の違い』に悩まされている、という方は多いですよね。この問題の難しさは、どちらが正解と言える正しい答えがないところです。

今回のご相談の場合も、義姉は感染症対策に気を使ってくれているとのことですし、問題は相談者さまと義姉の『コロナ禍での外出の安心基準』が異なっているという点なのです」

―義姉にまったく悪気はなく、むしろ親切心で子供たちを遊びに連れ出してくれているのが分かるだけに、かえって言い出しづらいですよね。

「ただ、だからと言って相談者さまが我慢をする必要もないのです。相手に不快な思いを
させないよう、できるだけ穏便にこちらの意思を伝えたい場面にお勧めなのが『アサーティブコミュニケーション』という方法です。

これは、相手を尊重したうえで、自分の主張もきちんと伝えるコミュニケーション方法のこと。自分の意見や状況はきちんと相手に伝えつつも、相手の立場や意見も自分と同じように尊重することがポイントです。

今回の場合、まずはこれまでの義姉の行いに対する感謝を伝え、『有難いし、子供たちも喜んでいるけれど、私はまだ新型コロナウイルスへの感染を心配に思っている』と正直に話してみましょう」

モヤモヤした気持ちは「即、伝える」

―それを聞いた義姉が、「これまでもずっと迷惑に感じていたのかな」と、思わなければいいのですが……。

「そうですよね。本来は、モヤモヤと府に落ちない自分の気持ちを相手に伝える場合には、少しでも早い段階でこちらの意見を伝える、というのが鉄則です。

日本人のなかには、相手に自分の意見はっきりと伝えるのが苦手な方も多く、時間が経って我慢の限界を迎えてから、『実は、前々から思っていたのだけれど……』と切り出すことが多いように思います」

―最初はなんとなく「自分が我慢すればいいか」と、心のモヤモヤを見て見ぬフリをするのですが、それが徐々に蓄積して、とうとう言わずにはいられなくなるんですよね。

「ただ、伝えるのが遅くなればなるほど、お互いにとって良いことはないのです。最初は些細な感情だったとしても、我慢を重ねた結果、大きな怒りに変わってしまうこともあります。嫌だな、と心がモヤモヤするのを感じた初期の段階で、相手に気持ちを伝えるのがベストだということを覚えておいて欲しいなと思います」

「最近」という言葉は万能ワード!

―他にも相手に不快な思いをさせずに自分の意思を伝えるコツはありますか?

「第三者の例をあげてみるのもいいでしょう。たとえば『子供のお友達が休日の遊び場に行ってクラスターに巻き込まれてしまって。だから今は少し控えておきたいなと思うんです』などの伝え方です。自分ではなく、他の誰かの例をあげて伝えるのもよいでしょう。

また、『最近』というキーワードもお勧めですよ。『最近になってまた不安になってきてしまったので、子供たちの外出も少し控えたいんです』と伝えてみてください」

―たしかに、「最近」という言葉が入ると「ずっと迷惑に思っていたのかな」と相手に思わせずに済みそうですね。

「他の場面でも有効な言葉なので、覚えておくと便利ですよ。たとえば、普段からメールの返事が遅い相手に、改善して欲しいと伝える場面があるとします。『あなたのメールがいつも遅くて困っている』と伝えると攻撃的になってしまいますが、『最近、何かあった? 少し返信が遅くなったように感じるのだけど』と言い方を変えるだけで、伝え方がマイルドになり、攻撃性が減ると思いませんか?」

―たしかにそうですね。円満に意見を伝える上では、相手に「自分が否定されているわけではない」と思わせる言葉選びが重要なんですね。

「言葉選びのポイントとしてもうひとつお伝えしたいのが、こちらの意見を相手に伝える際には、怒りや批判的な感情を含んだ言葉で伝えるよりも、不安感や悲しみの感情を伝えたほうが相手の心に入っていきやすい、ということです。

今回の相談者さまの例で言うと、義理の姉に『子供を連れて行って欲しくないんです』と伝えるよりも、『私が不安に感じてしまい……』と話してみるのがポイントです。そう伝えたほうが、相手も『そうとは知らず、ごめんね』と素直に聞けるかもしれません」」

 

新型コロナウイルス感染拡大への不安がいまだに払拭されないなか、それぞれの価値観の違いは仕方のないことです。自分自身を守りながら相手の立場も尊重できる、そんな上手なコミュニケーションスキルを身に付け、心の健康に努めましょう。

山名裕子先生

やまな・ゆうこ 1986年生まれ、静岡県浜松市出身。公認心理師。「やまなmental care office」を東京青山に開設。心の専門家としてストレスケアからビジネス・恋愛などの悩みへのカウンセリングを行っている。メディア出演や講演会活動も多数。

山名メンタルケアオフィス:https://yamana-mentalcareoffice.com/

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小嶋美樹
編集者、ライター、ディレクター。大学卒業後、出版社に勤務し、女性誌や実用書・ビジネス書の編集、WEBディレクターなどを経て、2020年からフリーランスに。現在は主にインタビュー記事や女性のライフスタイル・子供の教育系記事の執筆、韓国エンターテインメント記事の編集・執筆など行う。趣味は旅行で、今一番欲しいものは子供たちと日本中を旅して回れるキャンピングカー。