フェムコト 連載 by 橋本範子

性のことをオープンに話せる“空気感”をつくり、セルフプレジャーを肯定する世の中に|株式会社TENGA・犬飼幸さん

地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツ『フェムコト』。

今回対談させていただいたのは、株式会社TENGA・犬飼幸さん。女性向けセルフプレジャー・アイテムを中心に展開するirohaを通じ、セクシャルウェルネスやフェムテックに真摯に向き合っています。セルフプレジャーの魅力を交えながら、犬飼さんの描く理想の世の中についてお聞きしました。

ー犬飼さんの3つのルールー

RULE1.気持ちのスイッチにセルフプレジャーを活用する

RULE2.性的欲求を肯定して楽しむ

RULE3.誰もが発信できる“空気感”をつくる

〈Profile〉

株式会社TENGA iroha 広報
犬飼幸さん

いぬかい・さち 大学時代からライター業をスタート。“女性の性”にまつわる記事などを執筆する。卒業後、PR会社に勤務。2019年5月、株式会社TENGA入社。現在、マーケティング本部 国内マーケティング部にて女性向けiroha/iroha INTIMATE CAREの広報・PRを行う。

 

セルフプレジャーを通しパートナーや母親との関係性も変化

フェムテックtv:犬飼さんのキャリアスタートについて教えてください。

犬飼さん:大学時代は弁護士を目指し法学部に所属し、憲法のゼミに所属していました。子供ながらに“自分の身を守るために法律は武器になる、武力行使ではいけない”と思っていたんです。それに私自身は法律や政治に興味があったのに、若者が経済や政治に興味がないと言われるのが、すごくイヤだったんですよね。実際にゼミに入ってみると「私はこう思う」などみんな活発にディベートしていて、“なんだ若者だって興味あるじゃん!”とすごくいい空間でした。しかし、ゼミが終わった後は“法律に興味ないです”という感じで、みんなしおらしくなっちゃって。でもそれって、発言しない若者がいけないんじゃなくて、“発言したところで受け入れられないんじゃないか”“バカにされるんじゃないか”という、世の中の空気感がいけなかったのかと思ったんです。    

その空気を変えるために何かしたいなと思ったとき、新聞投稿をすることにしました。そしたら“大学生の声”として一度掲載されたんです。それを見た団体さんに声を掛けられ、発信の輪のようなものに参加するようになりました。ただ今のままだと“私は発信や自分の意見を言うなんて無理。あなたとは違う”と思われてしまうので、積極的に自分で発信をし、ある程度リスクを負うことで、発信側のモデルケースになろう。そう決めて、就職の軸を法律から発信に変えたんです。“もっとみんなが自由に発信できる世の中にしたい”という思いで就活をしていた矢先、ご縁があってライターとしてお声掛けいただきました。

「記事の取材用に編集部メンバーで話題の梅沢富雄さんのプリクラを撮影しに行きました」

フェムテックtv:“性の記事”を書くきっかけはあったのでしょうか?

犬飼さん:大学3年からライターを始めるようになり、企画会議にネタを提出するようにもなりました。ネタの一つとして出したものが採用され、デビュー作がたまたま“性の記事”だったという感じです。

内心“明日から学校行けない。絶対みんなからエロい女だって思われる”と思っていましたが、意外とみんな好意的で。「私の彼氏もこんなムカつく男だったから記事にしてよ!」「こんなイヤな経験があるから相談に乗って!」などと言われることが増えました。

フェムテックtv:みんな同じように悩みや葛藤を抱えていたんですね。

犬飼さん:自分の大学から他大学の子まですごい輪が広がっていき“女の子ってこんなに性に関して悩んでいるんだな”と気づきました。そして記事を書いていたPR会社さんに「うちで記事をそのまま書かない?」と言われ、就活らしいこともせずに就職した流れです。学生時代は自分の書きたいことを書いていましたが、PR会社では商品プロモーションとしての記事を執筆。3年ほど働いたのち、“製造から販売まで一貫して見られるほうがもっと深く面白いPRができるんじゃないか”と思い、自分の「得意分野×PR」を活かせる仕事への転職を決めました。

「“発信”をテーマにライター活動以外にも様々な活動をしていました。そのうちの一つがイベントMCです」

フェムテックtv:それがTENGAだったんですね。

犬飼さん:たまたま転職サイトからTENGAのレコメンドメールがきていたんです。それで入社しましたが、周囲の知人たちは“ついにエロの本店に行ったのね。ワロスwww”みたいな雰囲気でした(笑)。変わった人間だから変わったところに行くのねっていう。当時からデリケートゾーンソープも扱っていたので「うちでこんなのも扱っているから使ってみて」と言って渡したら「やめてください。そんなの持ってこないでください」と言われたこともあります。でも今ではそういった子も、他ブランドさんのデリケートゾーンソープをお仕事で紹介しているんですけどね(笑)。

フェムテックtv:入社当初と現在では、世の中のフェムテック事情も変わってきたかと思います。犬飼さん自身、TENGA社で働く中で変化したことはありましたか?

犬飼さん:パートナーとの関係性が変わりました。元々は性行為の際に「こういうことをしてほしい」とは言えなかったのが、TENGAに入社してアイテムを日常的に使うようになり「これ楽しいよ」などと言えるようになったんですよね。性のことって、一番話しにくい部分。でも私はTENGAで働いているというカミングアウトから始まるので、一番グレーな部分がオープンになるのも早いんです。性のこと以上に言いにくいことってなかなかに少ない。ここがオープンなら、他の部分を隠してもしゃーないわとなる(笑)。おかげで「言いたいけど言えない…察してよ!」というマインドからくるイライラの種が減るようになりました。文句も要望もだいたいのことはすぐに言えます(笑)。

親との関係性もだいぶ変わりましたね。性のお悩みって産前産後の変化やセックスレスの話など多岐にわたっているし、抱えている方の年齢層もだいぶ広い。専門家とは言えないので詳しくは話せませんが、多少のアドバイスや「こういう事例はあるよ」とは言えるようになったんですね。母からは「こういう体の変化で悩んでいる」と相談されるようになりました。これまで体の話って体調が良いか悪いかや生理痛のことを話すくらいで、それ以上の話はできていなかったんです。

フェムテックtv:セルフプレジャーについての考え方にも変化はありましたか?

犬飼さん:入社前まではさほどセルフプレジャーをしていなかったんですよね。価値観としても、セックスの代わりと考えていました。自分のパートナーとできないとき、ムラッとしたらやるっていう。恥ずかしいので、親にもパートナーにも隠れてすることとも思っていました。それが眠りの導入に繋がるということを知り、眠る前にもするように変わってきましたね。TENGAを通し“意外と私は性について知らないし、積極的じゃなかった”という気づきもありました。TENGAに勤めているとセルフプレジャー信者のように思われることも多いのですが、全然しない人もいるし、腟にはアイテムを挿れたくない人もいる。私自身は自分でアイテムを挿入する行為が苦手と気づいたことが、大きな変化かと思います。

「映画の試写会&トークショーを企画し登壇した際の写真。“性×仕事”をテーマに入社したきっかけや想いをお話ししました」

フェムテックtv:眠りの導入という話がありましたが、他にもセルフプレジャーがもたらすメリットを実感していることはありますか?

犬飼さん:私自身は、セルフプレジャーを切り替えにも使っています。最近、リモートワークや土日も家にいる機会が増えて、“暇だけど何もしたくないな。ベッドで横になってNetflix観ようかな。でもそれすらもしたくないけど、何かしなきゃ1日が終わってしまう…”そういう焦りながらも一つの行動を起こすのに体が重いときがあるんですよね。

そんなとき、その場で簡単にできる、小さい行動によって、大きな行動を起こす。そのミニマムステップとして、セルフプレジャーをスイッチ機能として使うんです。動きたいけど動けないときって、何かしらモヤモヤしているとき。それがスッキリします。食後の歯磨きみたいな感覚かもしれません。

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橋本範子
女性誌を中心に手がける編集・ライター。趣味は深夜ラジオを聴くこと。小型船舶2級所持。