フェムコト 連載 by 橋本範子

「ヴィーガンが100%いいとは思っていない」それでも自分や自分以外の存在のため、環境のため、善意を持って動く|菜食コンサルタント・山﨑由華さん

地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツ『フェムコト』。

今回対談させていただいたのは、菜食コンサルタントの山﨑由華さん。カナダに進学し栄養学を学び、植物性の食品だけでも栄養素が摂れることや食品産業の実態に触れたことで、2016年から不必要で利己的な動物の搾取を避けるライフスタイルのヴィーガン生活へと移行しました。ただ決して、ヴィーガンを人に押しつけることはないと言います。そもそも完全菜食(菜食) とは何なのか? 菜食生活になりどんな変化があったのか? 山﨑さんが願う今後の食のあり方や、働き方などをお聞きしました。

※この記事では、ヴィーガン=不必要で利己的な動物の搾取を避けるライフスタイル、菜食=動物性食品を排除したメニュー、レシピ、食生活など食全般という意味で使っています。

 

ー山﨑さんの3つのルールー

RULE1.心身のリズムを乱す仕事はしない

RULE2.早寝早起きで決まった時間に食事を摂る

RULE3.“選択する”ことを選択する

〈Profile〉

菜食コンサルタント・山﨑由華さん

●1996年東京都生まれ。2015年神奈川県立湘南高等学校 全日制を卒業後、2019年カナダのMount Saint Vincent Universityへ留学し、BSc Applied Human Nutrition with Honours学部を首席で卒業。2020年、菜食コンサルタントとしての活動を開始する。
instagram:@yuka_yamazaki_
https://www.yukayamazaki.com/profile

善意を持って選んだ菜食が、否定されない世の中に

フェムテックtv:早速ですが「菜食コンサルタント」とは聞き慣れない肩書ですが、どのような活動をしているのでしょうか?

山﨑さん:菜食を行ってみたいという方が安心して取り入れられるように栄養学や料理の作り方を情報発信したり、事業者向けに菜食の商品や関連のプロダクトなどをコンサルしたり、レシピ開発を行ったり。ライフスタイルにおける“食”という部分でみなさんのお手伝いをしています。

菜食というと野菜だけ食べているんじゃないか? と思われることも多いのですが、そんなことはありません。動物由来の食べ物を取り入れない食生活のことを「菜食」と言います。穀物、野菜、果物など植物性の食べ物を中心に料理を作るのが菜食生活ですね。

フェムテックtv:山﨑さんが「菜食コンサルタント」に至った原体験をお聞かせください。

山﨑さん:最初の一歩はカナダの大学で栄養学を学んだことです。そこで、植物性の食品だけでも栄養素は摂れることや食品産業の実態を知りました。さらにカナダはヴィーガンフレンドリーな国なので、ヴィーガンがクラスに1〜2人はいるんですね。そこから菜食をより身近に感じ、実際に菜食100%でも健康でいられるのかについての本や論文を読み漁って調べたり、実際の取り入れ方をYouTubeの発信を参考に学ぶことに。さまざまなことを知った上で、自分のために、自分以外の存在のために、そして地球のためにできる選択肢の先に菜食があったんです。こうして2016年からヴィーガンへ移行しました。

ただ私はカナダという環境にいてヴィーガンを身近に感じられましたが、当時はまだヴィーガン生活や菜食についての発信をしている日本の方がいなかったので、日本で生活している人は参考にできるものがなくて大変だし、孤独に感じてしまうよなと思っていました。そこで、大学在学中に自分自身で、YouTubeで発信してみることにしました。

大学を卒業する頃には私の動画をきっかけに、「日常生活にもっと野菜を取り入れるようになった」などの声をたくさんいただくようになりました。ただ、どうしても「栄養面で不安があり卵やお魚は取り入れている」という方が多かったんです。私は4年間しっかりと学んだ栄養学の土台があったので良かったのですが、確かにその土台がないと、自分で菜食ご飯を作るというのは不安も伴い難しいものなのだと痛感しました。それをきっかけに、もっと生活者の方が安心して菜食を取り入れられるようにという思いから、大学を出てから1年後に菜食栄養学のセミナーを行うように。そこから商品開発やメニュー開発の依頼をいただくようになり「菜食コンサルタント」として活動するようになりました。

「以前開発サポートに入らせていただいた冷凍菜食弁当の開発風景。冷凍と解凍を経ても美味しく、栄養バランスの整ったお弁当が完成しました」

フェムテックtv:そもそも山﨑さんは、なぜカナダで栄養学を学ぼうと思ったのでしょうか?

山﨑さん:日本の大学に入るつもりで高校生活を送っていて、専攻も栄養と建築と応用科学の3つで迷っていたんです。興味分野が元々広い方で、最初から栄養学一つに絞っていたわけではありませんでした。ただ、学んだことをすぐ実践するのが好きなので、食は自分で選択するものだし、栄養学なら学んだことを日々の生活に1番密接に活かせそうと思い、栄養学専攻に決めました。

そんな中、受験勉強に励んでいた高3の夏、友達から「お母さんに『(日本の大学に)落ちたら海外の大学行けば』って言われた」と聞かされて。そこで、そう言えば海外の大学という道もあったんだということ、そして実は昔から海外進学に興味があったことを思い出しました。それから治安や英語のキレイさや教育水準などを調べて、カナダの大学に進むことに。高校卒業後、4月から語学学校に通いカナダの大学でのレポートの書き方やプレゼンの仕方を学び、その年の9月に入学しました。英語は好きで読み書きとリスニングまではできたのですが話すことは得意ではなく、やはり初めは苦労しましたね。

「大学3年生のときカナダの食品開発の大会で優勝し、朝のニュース番組に出演しました。緊張で顔が引きつっています(笑)」

フェムテックtv:カナダで約4年間過ごし、帰国後すぐに開業届を提出し、個人事業主として仕事をすることを選ばれたんですよね。

山﨑さん:日本の大学に進学していたら、周りがみんな就活まっしぐらで、その流れで私も就活していたと思います。海外へ行くと、就活する・就活しないまずそこで選択肢があるんですよね。もし企業に就職したいとなった場合は、日英バイリンガルのための就職イベントに行き、そこで企業説明を聞いたり面接をして内定をもらいます。でも、当時の私にはそのイベントに興味が湧く企業はなく行きませんでした。そして、日本の社会に足りないものも感じていたので、一旦企業の中でではなく、個人でできることをやって様子を見てみようと決めました。

フェムテックtv:“日本の社会に足りないもの”とは、どのようなことでしょうか?

山﨑さん:菜食生活を始めてから一時帰国したとき、ヴィーガンのヴィの字も知らない人が多くて偏見を持たれてしまい、困ることがすごく多かったんですね。それがカナダに戻ったら、すごく快適で。この違いは何なんだろう? と思ったんです。

カナダは多様性のある国なので、みんなとは違くても自分の信念に沿って選択をしていくことがカッコいいと思われるくらい。それが日本では調和が第一。周囲から外れることが、すごく生きづらさに繋がっているなと感じました。私は、ヴィーガンが100%いいとは思っていません。ただ、自分や自分以外の存在のため、そして地球のために、善意を持ってやっていることが認められないのは何でだろう、と。まだまだ日本はマイノリティに厳しい社会。私もヴィーガンの当事者として、そこからアプローチしていきたいなと思っています。

フェムテックtv:いまでこそヴィーガン向けのお店も増えましたが、数年前までは聞き慣れない言葉だったようには思います。

山﨑さん:そうなんですよね。一時帰国の際に母と横浜でご飯を食べることになったんですが、ヴィーガン向けのお店がなくて。お出汁に目をつぶれば食べられるかなと思いお茶漬け屋さんに入りましたが、見事に全メニューに動物性の食品のトッピングが乗っていました。サーモンアボカド茶漬けのサーモン抜きを頼んだら、店員さんに「サーモン抜きで大丈夫ですか?」と3回くらい確認されました(笑)。

フェムテックtv:周囲の理解がないと、ヴィーガンを続けるのはなかなか大変に感じます。

山﨑さん:私はヴィーガンであることを公に知られていることもあるし、友人もみんな優しいので、食事の際は「せっかくならヴィーガンのお店に行きたい!」と言ってくれたり、ヴィーガンの対応をしてもらえるお店を選んでくれたりすることが多いですね。ただ初めましての方に「私はヴィーガンです」とはあまり言わないので、そういう方と突然食事へ行くようなときは、菜食のものがあれば頼みますし、なければお店の人に相談するか、いちばん菜食に近いものを選ぶようにしています。ちなみに母は私を妊娠していたときは食事を玄米菜食にしていたので、私がヴィーガンになったときも「いいんじゃない?」と、かなり肯定的でした。

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橋本範子
女性誌を中心に手がける編集・ライター。趣味は深夜ラジオを聴くこと。小型船舶2級所持。