お悩み相談室 フェムテック/ケア by 小嶋美樹

PMSと「摂食障害」は症状が似ている!? 「月経前に食べ過ぎてしまうのが辛いときには、婦人科医に相談してみてください」

『フェムテックtv』で人気の産婦人科医・池田裕美枝先生こと“ゆみえ先生”が、女性の悩みや性の疑問などに答える本連載。今回も前回に引き続き、女性が罹患することが多く、無月経などを引き起こす「摂食障害」と、月経前の過食衝動など症状が似ていることもあるPMSに関して伺っていきます 。

月経前の食べ吐きも摂食障害?

―最近、摂食障害が原因の無月経で婦人科を受診される女性も多いと聞きました。たとえば月経前に食欲が増したり、無性に甘い物が食べたくなる人も多いなか、それがきっかけとなって摂食障害に発展することもあるのでしょうか?

「きっかけと言うよりは、摂食障害の症状が悪化する要因にはなってしまいますよね。普段は食べることを我慢している人でも、月経前に食欲が増すことで思わず食べてしまう。でも、食べ終わると今度は食べてしまった罪悪感に苛まれ、自らの意思で吐いてしまう……といったように、月経前になると食べ吐きをすることがやめられない患者さんも実際にいらっしゃいました」(ゆみえ先生・以下同)

―たとえば普段は問題なく食事をとれている人が、月経前にだけ食べ吐きを繰り返してしまう場合でも、摂食障害だと診断されるのでしょうか?

「摂食障害だと診断する基準のなかに、『過食と不適切な代償行動(食べ吐きなど)がともに平均して3ヶ月に渡って、少なくとも週に1回は起こっている』というものがあります。つまり1カ月のなかで月経前の3日間だけ過食や食べ吐きをし、その他の日は標準的な食事がとれているのであれば、一般的には摂食障害とは診断されません」

摂食障害と似ているPMSの症状

「ただ実際には、『月経前に食べすぎて吐いてしまう』とか『月経が近づくとお腹がパンパンに張る感じがして、下剤を使っている』という患者さんがいらっしゃるのも事実です。でも、それが月経前だけの症状だとしたら、私たち産婦人科医は、摂食障害というよりはPMS(月経前症候群)だと判断します」

―そこだけ聞くと、たしかに症状が似ていますよね。

「たとえ1ヶ月のうち3日間だけであっても、それを辛いと思っているようであれば、婦人科やレディースクリニックを受診してきちんとケアしていくことが大切です」

―摂食障害の症状で悩んでいる方が受診するのは、心療内科や内科のイメージがありましたが、こうしてお話を伺っていると、女性の場合は婦人科を受診してみてもいいのですね。

「女性の悩みはなんでも産婦人科に相談いただいていいのですよ。症状に合わせて婦人科から他の科を紹介させてもらう場合もありますが、普段から通っているレディースクリニックなどがある方は、まずはそちらで相談をしてみてください」

声が上がり始めたアスリートの無月経

―他にはどんな患者さんがいらっしゃいますか?

「無月経を心配して受診される患者さんのなかには、本格的にスポーツに取り組んでいらっしゃる方も少なくありません。決して過食や嘔吐を繰り返しているわけではないのに、単純に食べる量に対して使うエネルギー量の方が多いために体重が減少し、月経が止まってしまうことも。これらの症状は『単純性体重減少性無月経』と呼ばれます」

―やはり月経がストップしてしまうことは身体によくないことなのですね?

「詳細は前回もお話しましたが、月経が止まってしまうと女性ホルモンが十分に分泌されず、骨密度が下がって骨がスカスカの状態になってしまいます。特に成長期の10代、20代の女性や、アスリートにとっては見過ごせない問題なのです」

―近年、女性アスリートの無月経が問題視されていますよね。マラソン選手や体操選手など、体重コントロールが求められる競技を行っている女性アスリートの無月経が放置されがちだと聞きました。

「『アスリート』と聞くと『テレビに出るようなすごい人』とのイメージがあるかもしれませんが、『学校での部活動で頑張りすぎてしまい月経が止まった』と相談に来られる方も多いのが現状です。

これまでは、『生理がとまってしまった』とコーチに言うのがはばかられる雰囲気があったのが、最近は声を上げやすくなってきたのかもしれませんね。月経が止まるまで練習をすると、疲労骨折のリスクが上昇するなど、かえって選手の力を伸ばせないことにもつながります。アスリートが無月経を放置しないようになってきたのは良いことだと思います」

「食べたいのに怖い」になったら医療機関へ

―摂食障害は、どこからが病気で、どこまでが「ダイエットの成功」なのかが分かりづらい疾患でもあるような気がします。医療機関を受診すべき目安のようなものがあれば教えてください。

「医療的なガイドラインもありますが、私たち医師が臨床の現場の肌感覚で思うのは、患者さんご本人が『このままではマズイから体重を増やさなきゃ』と危機感を抱きつつも、怖くて食べ物を摂取できない、などと言ったようなアンビバレンツな状態に陥っている場合です。『それはちょっとまずいから、医療的な介入が必要だね』と患者さにも説明をします。

そうではなく、自分で食べることができ、採血でも異常がなく、月経もきちんときているようであれば、ときに無性に食べたくなって大量に食べてしまう日があっても、ある程度はそんな自分を許してあげることも大切ではないでしょうか?

必要以上に罪悪感に苛まれ、自分で自分を追い詰めなくても、まずはそれでも今日を生き延びた自分を褒めてあげてください。そして、徐々に過食以外のストレスマネジメントの方法を私たち医師と一緒に考えていければいいのだと思っています」

池田裕美枝先生

いけだ・ゆみえ 京都大学医学部卒業。「市立舞鶴市民病院」「洛和会音羽病院」にて総合内科研修後、産婦人科に転向。現在は「二宮レディースクリニック」での産婦人科外来、「神戸市立医療センター中央市民病院」の女性外来、「京都大学医学部附属病院」の女性ヘルスケア外来を担当。また、SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)の勉強会や啓もう活動を行う研究会「SRHR Initiative」の代表も務める。

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    […] ことも多かったです。次回は「摂食障害とPMS」などに関して伺っていきます。 […]

小嶋美樹
編集者、ライター、ディレクター。大学卒業後、出版社に勤務し、女性誌や実用書・ビジネス書の編集、WEBディレクターなどを経て、2020年からフリーランスに。現在は主にインタビュー記事や女性のライフスタイル・子供の教育系記事の執筆、韓国エンターテインメント記事の編集・執筆など行う。趣味は旅行で、今一番欲しいものは子供たちと日本中を旅して回れるキャンピングカー。