「大切なのは『自分はどう思うか』を持つこと」宝島社 sweet編集長 鏡味由起子さん|フェムコト インタビューvol.1
生理やPMS、セクシャル分野まで女性のカラダの悩みを解決するメディアサイト『フェムテック tv』と、未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』が新たに、女性のウェルビーイングの向上を目的とした『フェムコトプロジェクト』を立ち上げました。地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツです。
第1回目となるゲストは、大人かわいい唯一無二の世界観を持つファッション誌『sweet(スウィート)』の編集長を務める鏡味由起子さんです。
〈Profile〉
sweet編集長 鏡味由起子さん
かがみ・ゆきこ 1999年宝島社に入社し、『CUTiE』編集部を経て、2004年より『sweet』編集部に配属。2020年9月より『sweet』編集長に就任。
INDEX
バランスを取るというよりは、その時々で働き方を変えていく
フェムテック tv:出版業界はハードワークという印象がありますが、今はどのようなワークライフバランスで働いていますか?
鏡味さん:出版業界は想像通りハードワークです。出版社で働くということにはある程度の覚悟を持っていたし、私自身も「そういうものなのかな」と思って入社したところがあります。若い世代の編集者を見ていると、「え、こんなに大変なの?」って、心が何度も折れそうになったりしていますが、私の中では「心折れそうになるのはまだ早いよ」と思うところがあったり(笑)、今は私たちの頃とはまったく環境が違うと思います。
私は仕事も大事ですけど、プライベートも同じように大事にしています。一生懸命に働くし、遊ぶ時も一生懸命。私を見て、編集部員も「遊んでいいんだ!」ってなったりすると思うんです。確かにすごく大変な仕事だけど、その分楽しいことができる仕事だとも思っています。うまくバランスが取れればベストですが、正直なところ、出版業界で働くということは今でも、どっちを選ぶかという感覚はあると思います。仕事を続けるモチベーションは、大変でも好き、楽しい、という気持ちがないと続けられません。もしネガティブな要素のほうが勝ってしまったら、思い切って辞める選択をしてもいいのかなと思っています。
フェムテック tv:もう少し頑張れば楽になるかもしれないという気持ちを持って、働いている人もいるように思います。
鏡味さん:そういう気持ちで働いているとモチベーションをキープすることは難しくなると思うんです。だから、「キャリアを重ねていっても、その時々で大変なことはあるよ」というようなことは言っています。もしかしたら女性は、結婚や出産でライフスタイルが変わってくることもあると思うので、そこは自分で折り合いをつけながら働き方をどんどん変えていくのがいいのかなと、私はそう思っています。
ある程度の「鈍感力」が大事
フェムテック tv:鏡味さんの働き方は変わってきていますか?
鏡味さん:そうですね。以前は休みがあまりなかったけれど、そういうものだと思っていたところはあります。大変ではありましたが、だからといって若い世代の編集者に「私の若い時は……」ということは絶対に言わないです。そう考えてみると、今は徹夜をせず、夜は家に帰っているし、土日に撮影が入ることもあるけど、きちんと休めてもいます。
フェムテック tv:徐々に移行していったんですか?
鏡味さん:気が付いたらっていう感じですね。あとは仕事に慣れてきたというか、自分の仕事のやり方が見つかったというのもあると思います。
フェムテック tv:同じように働いていても、不調になる人もいますよね?
鏡味さん:確かにそうですね。編集の仕事は常に締め切りに追われているところがあるので、すごく気が強いとか、色々気にしない鈍感力みたいな、そういうものがないと続けられないと思っている部分はあります。繊細すぎたり、「自分はできない」と思ってしまうと体調を崩す可能性があるのかもしれないですね。
フェムテック tv:鏡味さんは、そういうことも含めてマネージメントする立場にあると思うのですが、どのよう伝えていますか?
鏡味さん:教えるというか、どちらかというと私が教えてもらっていることがたくさんあります。「この子は仕事が丁寧だな、スタッフとの距離感がうまいな、私もこうやってみようかな」とか、教えてもらうことも意外と多いです。編集者としての仕事の仕方は、正解はなく、自分で見て学んでいくスタイルなので、聞かれたらアドバイスをする程度。20年編集者をしている私自身もまだ慣れないこともあります。編集長になったら仕事内容がまったく変わって大変でびっくりしています(笑)。
「休みの日は友人たちと出かけることが多いです。キャンプや旅行、これからもっとしたいですね」
知ってほしいこと、考えてほしいことを企画に取り入れる
フェムテック tv:鏡味さんが編集長になってから、『sweet』にSDGsやフェムテックなどの企画が増えた印象があります。
鏡味さん:すごく意識しています。新しいムーブメントは企画でもどんどん取り入れていきたいという気持ちは常にあります。特にSDGsやフェムテックに関しては世界的に若い世代が関心を持っていることだと思うので知ってほしいこと、考えてほしいことを紹介したいと思っているので、意識して取り入れているところがあります。
sweetは20代後半~30代の女性をターゲットにしていますが、私が編集長になった時に“進化する努力をする女のコのための雑誌だと私の中でテーマを決めました。私は誰でも努力でおしゃれになれて、メイクで可愛くなれると思います。ただ、今の時代は見た目を磨いているだけではイケている、というわけではなくて、自分の生き方にやマインドに関しても模索することもファッションやメイクを研究することと同じくらい大切だと思っています。
人によってはSDGsは壮大な目標と感じるかもしれないし、自分事と考えられないかもしれない。説教臭いのは私も好きではないので、例えばマイボトルを持つのはボトルが可愛いからとか、おしゃれな人がマイボトルを持っていたからとか、入り口はそういうファッション感覚でもいいのかなと。でもずっとマイボトルを持ち歩く生活をしているとペットボトルを捨てることに違和感を感じたりしてくるんです。SDGsやフェムテック、クリーンビューティなどは、難しいことを勉強する感覚ではなく、モノを選ぶときの選択肢として自然と自分のライフスタイルに取り入れていけるようになったらいいなと思っています。
フェムテック tv:流行っていることなど、トピックスは現場でキャッチしているんですか?
鏡味さん:現場でリサーチすることもありますし、SNSもチェックします。自分が好きだからいろいろ調べることもします。アメリカとイギリスに留学していたこともあるので、海外にいる友だちから教えてもらうことも多いです。そこで知った新しいキーワードはすぐ調べています。
フェムテック tv:最近、海外で話題になっているのはどんなことですか?
鏡味さん:ごみの分別についての取り組みの違いに、改めてギャップを感じました。例えば、スウェーデンは環境先進国で、家庭内でもゴミの分別が12種類ほどあって、ごみを減らすというよりどう活用するか、という再利用技術が優れていたり、リサイクル文化が根付いていますよね。学生の頃にもすごいと感じましたが、大人になった今でも日本とは違うと、改めて思いました。
コロナ禍になるだいぶ前の話ですが、海外から日本に友だちが遊びに来た時に「朝ごはん、何食べる?」って聞いたら、「ブルーベリーのスムージーが飲みたい」と。フレッシュなブルーベリーはあまり売っていないから冷凍タイプを買いに行きました。すると、「どこの?」って聞かれたので、原産国を見てみたらブラジルだったんです。「日本の裏側にある国じゃない。アンナチュラルだからいいわ」って言われました。また、日本のおせんべいを買いに行ったときは、「too muchパッケージだ」と、個包装が嫌だって言われて。私達の生活の周りにある普通のものが、その子にとっては選ばないものなんだなって。
中でもすごく印象的だったのは、スウェーデンから友だちが来た時に、「これから子どもを作る予定だからその前に日本に旅行に来た」って言われました。「いつ子どもが出来るか分かんないじゃん」と答えたら、「私は帰ったらすぐ体外受精をするから」と。友だちは当時30歳くらいだったと思うんですけど、自然妊娠を待つのではなく、早々に体外受精という選択をしていたのが日本とは違うと感じて、自分のライフプランを持っていて賢い選択だと思いました。
そういう意味では日本は遅れをとっているかもしれないけど、今から気にしていけばいいことだとも思っています。
「2016年に留学時代の友人を訪ねてスウェーデンに行ったときの写真。夫婦で働いて、子供のお迎えも料理も完全に家事は分担制の家庭が多かったです。育児休暇を取る男性も多いそう」
「こんな日もある」と悩んだりはあまりしないです
フェムテック tv:そうですね。日本でも、生理用品に関して言うと、オーガニックコットン製が登場したり、最近では経血カップや吸水ショーツなども登場して選択肢が増えていますよね。
鏡味さん:やっぱり、女性に一番身近なもののひとつが生理用品だと思うんです。オーガニックコットン製は化学薬品が含まれていなくて、より安心して使えたりもしますが、価格的には少し高くなりますよね。いい製品をつくっているのだからある程度は高いのは当たり前ですが、そもそもつくっている工場が少ないから、その分価格が高かったり種類が少ないという事情もあると思います。日本はその分野はまだまだ発展途上ではありますが、その一方で日本の生理用品は世界一の性能だと思っています。海外製だと紙ナプキンが厚すぎたり、タンポンのサイズも大きかったりして、「使いにくい……」って思うんです。だから、日本の素晴らしい部分がもっと知られる場所が増えるといいですよね。
フェムテック tv:正しく選択できる知識をそれぞれが持つことも大事になりますよね。
鏡味さん:先日も、フェムケアのアイテムが編集部に届いたんです。ぱっと見は、潤滑ゼリーなのかなと。でも、よく見てみたら「乳酸菌」と書かれていて、結局に何のために使うアイテムなのかがわからなかったんです。
フェムテック tv:そこには、法律の壁もあったりします。わかりやすく書きたくてもかけない、というジレンマはありますね。
鏡味さん:なるほど……。でも、用途がきちんとわからないと使えないですよね。
フェムテック tv:はい、それはフェムテック界隈の大きな壁ですね。
鏡味さん:まずはそこを壊すところからやっていかないと、浸透していかないかもしれないですね。私ですら「何だろう、これ?」って思うものだったら、読者はもっとそう思いますよね。なんで法律は厳しくなったんですか?
フェムテック tv:SNSの浸透によって個人で発信する場所が増えたことも要因のひとつだと考えています。個人発信の情報を信じたことで、手遅れになってしまうというケースが増えたり、あとは、ステルスマーケティング(宣伝広告であることを隠してセールスプロモーションをすること)の影響も考えられます。
鏡味さん:なるほど。それにしても、使い方の説明はきちんとわかりやすくしてもらったほうがいいと思うんですけどね。
フェムテック tv:そうですね、そこが少しでも解消されるように発信していきたいと、私たちも、メーカーさんたちも工夫しながらやっています。鏡味さん自身はPMSなどに悩んだりすることはありましたか?
鏡味さん:「今日は暗い気分」「今日は気持ちがのらないな」と思うことがあっても、生理前だからということをあまり意識したことがないです。「こんな日もある」くらいの受け止め方なので、悩んだりはあまりしないですね。
日本はまだまだだけど、いいところをもっと知ってほしい
フェムテック tv:sweet編集部は全員が女性と伺いました。部下の健康面に関してはどのように向き合っていますか?
鏡味さん:具合が悪そうだったら、帰るように促したりしますし、なにかあれば相談にものります。私自身も先輩から更年期の話を聞いたりしてすごく気になってはいます。あまり教えてもらえる機会がないから、そういう話をしてくれるのは嬉しいです。そういうことこそ、先輩から後輩に教えてほしいと思っていますので。
フェムテック tv:そういう話を聞くと準備ができますよね。
鏡味さん:そうなんです! 年齢を重ねていくと、ちょっと怒ったり、ちょっと汗かいたりしただけで更年期って言われるじゃないですか(笑)。だから、ちょっとくらいおもしろいって思ってくれるくらいがちょうどいいのかなって。私の友だちもプールから上がってきたの?っていうくらい汗をかいていたことがあって、その時はしっかり笑いにしました。そのためにも知っておく必要はありますよね。
フェムテック tv:深刻にしすぎない、シリアスに捉えすぎないようにっていうことですよね。
鏡味さん:はい、そうです。だってみんなにあることですから。だからこそ、もっとオープンに話したほうがいいのかなとも思います。
フェムテック tv:会社の制度として生理休暇はあるんですか?
鏡味さん:制度としてはありますが、「生理なので休みます」という人はなかなかいないですよね。
フェムテック tv:そうですね。弊社も制度としてはありますが、わざわざ申告する人は少ないですね。ただ、休める環境があるとないとでは大きく異なりますよね。忙しい毎日だとは思いますが、鏡味さんは、休日はどのように過ごしていますか?
鏡味さん:友だちと会って話をします。すごくくだらない話がほとんどですが、リフレッシュにもなるし、流行っていること、出版業界とは違う業界での出来事など、いろいろ教えてもらっています。ただ、ステイホーム期間が長くて、友だちになかなか会えない状況ではありましたよね。話し方を忘れたから会話教室に通おうかなと言っていた人がいたくらい。そういうのは精神的にもよくないですよね。
フェムテック tv:コロナ鬱など、新たな社会問題も出てきましたよね。
鏡味さん:『sweet』でも、長谷川ミラちゃんの連載『sending…VIRTUAL HUG』で、ウェルビーイングな世界を目指すための内容を取り上げています。読者からも「この連載に救われた」っていう声が届いたりしています。
フェムテック tv:同じテーマでも、新聞なのか、雑誌なのか、その中でも『sweet』で取り上げることによって見え方や伝わり方が違ってきますよね。
鏡味さん:メンタルヘルスの問題は、セレブやオリンピック選手が声をあげたことによって、誰にでもある普通のことなんだ、と言いやすくなってきているのはすごくいいことだと思っています。
フェムテック tv:ウェルビーイングは、本質的に価値のある状態。WHOの定義では、身体だけではなく、精神面、社会面も含めた健康を指すことが多いですよね。
鏡味さん:今は、誰でもSNSで発信ができて、その分叩かれやすくもなっていますよね。そういったSNSの問題はありますが、メンタルヘルスの問題、#MeToo、LGBTQなど、声に出しやすくなったことで、世界が変わってきていることをものすごく感じるし、少しずつ生きやすくなってきているはず。こんなに時代が動いているのを見ている私たちは、より世界基準で動けるようになっていると、そういう体感、実感はすごくあります。
「もう転職した人も結構いますが同期が多く、たまにみんなで集まっています。いろいろ相談にのってくれたり助けてくれるのでありがたい存在です」
自分の考え、思想をしっかりと持つこと
フェムテック tv:その一方で、「話すことを強要されている」と感じている人も増えている実情もあります。
鏡味さん:そうですね。大切なのは、自分はどう思うかを持つことだと思っています。話したくないと思う人も、これはプライベートな話だから自分で向き合って自分でどうにかしますという人も、それでいいと思います。みんな同じだというマインドは、私も好きではありません。それはとても危険なことでもあると思うんです。みんなが同じ方向を向いて同じことを目指していく必要はないと思うし、個人がどんな考え、どんな思想を持っているかを大事にしていきたいと思っています。
フェムテック tv:情報が溢れると共に、声をあげやすくなったからこそ、より自分の軸が大切にはなりますよね。
鏡味さん:コロナ禍になる前は、年に2~3回のペースでLAに行っていたんですが、今は電話で現地の友だちと話したりしています。LAは極端に若い世代に性別の流動がトレンドになっているらしいです。Z世代はかなり多くの人がノンバイナリー(性別を限定しない立場をとる人)だって聞いて。
私が引っかかったのは、トイレが男女一緒になっていること。Whichever(どれでも、どちらでも)とか書いてあったり。ジェンダーにおいて偏見は持っていないけど、トイレが一緒なのは嫌だと思う。それが私の考え。そういう話を聞いて、賛同できる人もいれば、私みたいに嫌だと思う人もいる。それは当たり前のことだから、自分がどう思うか、どう感じるかを、個人としても、雑誌を作るうえでも大切にしたいと思っています。
フェムテック tv:今日は貴重なお話、ありがとうございました!
『sweet』11月号(宝島社)
photography:Yoshitake Hamanaka
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